「学習は文化につれて3 -食いしん坊、ばんざい!-」の巻

 外国語を習い始めると、初級のうちに必ず食べ物にまつわる表現や単語の練習がある。 ある時はレストランでのオーダーからお勘定まで、ある時はお料理をするシチュエーションで、ある時はお食事にお呼ばれするやりとりで、またある時は普通に家族と食事の時間の表現で、etc etc。
 いずれの場合も、ごく基本的な食材の名前などを習うわけだが、当然ながら必ずしも日本に一般的にある食材と一致するとは限らないので、ぴんと来ない単語や表現も少なくない。野菜や魚介類を多く食べる日本の語彙に対して、ヨーロッパ言語では魚の種類やら同じ野菜やらを見つけるのに苦労する*し、逆に、例えばドイツでは加工肉やパンの種類が驚く程多く、それぞれの名称が使われているので、日本語にできなかったりする。ロシア語のクラスでは、ある単語がわからなかった皆に先生が一言、「Honigmelon(ホーニッヒ・メロン)よ」とドイツ語を教えた瞬間、私以外の全員がすんなり納得した、ということもあった。基本的に食べ物に無頓着な私にはますますハンディである(日本では「ハニーデュー・メロン」という英語名でお目見えしていると思われる)。
 とはいえ、共通して一般的な食材も少なくないので、そういうものをまとめてイラストと共に習ったりするのだが、先日ポルトガル語のクラス内でこんな質問を受けた。
「魚と肉はどちらが好き?」「牛肉と豚肉と鶏肉ならどれが好き?」「お米(ご飯)とジャガイモどっちが好き?
 この三つ目の質問には困って黙ってしまった。受講仲間のドイツ人の男の子は躊躇なく「イモ」と答えている。ドイツではジャガイモをよく食べる**から何の不思議もない。ポルトガルでも同様らしく、先生にも何の違和感もない。しかし・・・。
「貴女はお米とジャガイモどっちが好き?」黙って首を傾げる私に、先生がゆっくり繰り返す。「ご飯食べるでしょ(日本人だし)、どっちが好き?どっちをよく食べる?言ってる事わかる?」「・・・・・・。」
 いや、わかるよ、質問の意味は。「そうじゃなくて・・・。」困った挙句にドイツ語で、 「・・・質問はわかるけど、お米とイモの比較、というのができません。イモは野菜だし、お米は日本人にとっては主食だけどイモは違う。比較するなら、お米とパスタとか、お米とパンとか・・・。」「・・・へえ〜!なるほどね!興味深いわ、面白い!!」
 つまり、「日本人は米(ご飯)をよく食べる」ということはよく知られていても、「米同様にあるいはその代替として、イモもよく食べる・・というわけではない」ということは意外と知られていないのであるらしい。
 実際のところ、私は(海外では)お米をそれほど食べないので、別にどちらか適当に答えておいても構わなかったし、そういう意味では質問そのものに大した重要性はないので、答えはどうでもよかったのだ。私たちに大事だったのは、食材の単語を学ぶことと、それをテーマに何かしら話すことだったのだから。でも、やはりこんなところでお互いに学び学ばれることもあるのだなと、しみじみ思った時間だった。
 ちなみに我らが先生は、このエピソード(思考)がどうも気に入ったらしく、以後私たちが全く関係のない単語や前置詞を組み合わせてしまうと、
「あー!ダメダメ。それは“ジャガイモとお米を並べて比べる”ようなものよ!」 と言うようになった・・・。

*ものによるが、言葉が全くないわけではない。一般的でないから皆知らなかったり使われなかったりするだけのものも多い。
**ドイツではイモが主食、と言われることもあるように、料理のメインであることも少なくないし、量(膳に占める割合)も多い。




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