「ネクタイ狩りーヴァイパー・ファストナハトー」の巻

 さて、今年一年の始まりは…、などと思っているうちにもう2月も中旬。カーニバルの季節がまたやってきている。移動祝祭日である「バラの月曜日(Rosenmontagローゼンモンターク)」は、2007 年は2月19日。お祭り騒ぎ本番の初日(?)、ヴァイパー・ファストナハト(女性のカーニバル、アルト・ヴァイパーなどとも)はその直前の木曜日である。(「“カーニバル”の意味するところ 3」の巻 参照)
 巷に増える仮装衣装と(たぶん)飲み会。そして祝日の月曜日と、平日にぽっこりやって来るこのネクタイ狩りの日は、しかし、決してドイツ全国規模のお祭りではない。国内でも限られた地方、そして同じ州の中でさえ町によって、「バラの月曜日」が祝日だったり普通の日だったりするのだそうだ。
 ラッキーなことにこの月曜日が祝日になる所に住む私には、もれなく直前の木曜日がヴァイパー・ファストナハトになり、女性にとっては男性のネクタイを切り落としたりキスをしたりしても良い日で、同時に平日のビジネスマンといえども“ノータイOK”の日になる。
 切り落としても良い、と言われてもシルク仕立ての“ビジネスマンの象徴”に鋏を入れるのはやはり気が引けるというもので、去年は面白そうだと思いつつもただ、午後になっておもむろに半分になったタイをぶら下げている社内同僚の姿を微笑ましく眺めているだけであった。
 が、今年は違う。
「ネクタイすなわち男根の象徴を切るのは、男性諸氏に対する女性からの日頃の仕返し鬱憤ばらし!」
という説明が適切な表現かどうかはさておき、今年は一大決心して初ハント!社内の半分程の男性社員が朝からノータイで出社している中、よその土地の顧客に会う訳でもないのに通常通りネクタイ着用で勤務している部内同僚を捕獲。(まあ、当然この日は殿方も心得ていて、敢えてネクタイをしてきているのだし、切られても構わないものを着けているのだし、誰もが皆ノータイではつまらないというものだが。)
 しかしながら、いざ切りにかかるとこれがなかなか切りにくい。抵抗されてる訳ではないので、扱いは難しくないのだが、初めてとあって妙な切り方になってしまった。普通、ネクタイは幅広の方が上(表)になり、細い方が下に隠れている。これを両方切るのか上だけ切るのか迷いながら、切りやすいので表側だけ一枚切ったところ、直線に短くなった幅広の辺の下から、細身の下の部分がぺろっと伸びて見えている、という格好になってしまった。かなり間抜けな姿である。
 切られて半分になったネクタイをそのまま着けている男性もいれば、はずして捨ててしまう人もいるのだが、私が切った二人目は(一人目よりは普通に切れたのだが)さっさとはずしてしまった一方で、先に述べた様な切り方になってしまった同僚は、なぜか一日中その間抜けなネクタイ姿を晒していてくれたので、見るたびに吹き出してしまった。
 このようにネクタイイベントで浮き足立つ中、もちろんお祭り現象はこれだけではなく、普段は静かに騒がしい社内の片隅でラジオがつけられカーニバルの音楽番組が流れ、ベルリナーと呼ばれるジャム入りの丸形ドーナツが山と振る舞われ、キッチンには昼間からビールが小型の樽で用意されていた。(ここはデュッセルドルフなので、この場合のビールは絶対にアルト!←地ビール。 ちなみにケルンならケルシュ。)
 「カーニバルっていうのは、普段真面目で規律に縛られたドイツ人が一年に一度ハメを外す期間だから」と多くの人が言う。ウソだよ、そんなの、あんたらついこの間年越しでもその直前のクリスマスシーズンでもガンガン飲んで騒いで着ぐるみ着てたじゃん!
 そんな微妙な疑問形を残しつつ、カーニバルは月曜日のクライマックスへと向かう。

 …で、切り取ったネクタイ。普通は切った人がそのまま捨ててしまうのだろうけど、面白いから記念にとっておこうかな、なんて考えつつデスクの目の前に貼付けておいたのだが。
 …男根の象徴なんて持ってたら仮想・阿部定かしら?







Copyright (C) 2007 Yuki, All rights reserved.